ディープSDGs:世界の潮流と日本の現実

消費者の意識変化と製品規制の国際潮流:SDGs目標12から見る日本企業の責任ある生産戦略

Tags: SDGs12, 責任ある消費生産, 製品規制, 消費者行動, サステナブル製品, エコデザイン

はじめに:SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」が問う企業の役割

SDGs(持続可能な開発目標)の目標12「つくる責任 つかう責任」は、持続可能な消費と生産のパターンを確保することを目指しています。これは、単に環境負荷を減らすだけでなく、資源効率の向上、廃棄物削減、化学物質の適切な管理、そして消費者のライフスタイル変革を促進するなど、経済活動の根幹に関わる広範なテーマを内包しています。

近年、この目標12に関連する国際的な潮流は加速しています。気候変動、資源枯渇、生物多様性の損失といった地球規模の課題が深刻化する中で、企業に対しては、自社の製品やサービスが社会や環境に与える影響全体に対する責任をより強く問われるようになっています。特に、消費者の意識変化と各国の製品に関連する規制強化は、企業の製品戦略やビジネスモデルに直接的な影響を与える重要な要素です。

本稿では、SDGs目標12を巡る世界の最新動向、特に消費者の意識変化と製品に関連する規制の国際潮流に焦点を当て、それが日本企業にどのような影響を与え、企業はどのような戦略を取るべきかについて、専門的な視点から詳細に解説します。

世界の潮流:高まる消費者意識と加速する製品規制

世界の消費者の間で、製品やサービスの購入が環境や社会に与える影響への関心が高まっています。特に欧米を中心に、エシカル消費やサステナブル消費といった概念が広がり、製品の製造過程、使用されている素材、サプライチェーンにおける労働環境、廃棄時の影響などを考慮して購買意思決定を行う消費者が増加しています。各種調査でも、環境配慮型の製品や、社会課題解決に取り組む企業の製品に対して、多少高くても購入を検討するという消費者の割合が増加傾向にあることが示されています。

この消費者意識の変化は、企業に対して透明性の高い情報開示を求める圧力となり、グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)に対する厳しい目が向けられるようになっています。信頼性を確立するためには、製品のライフサイクル全体を通じた環境・社会負荷に関する客観的なデータに基づいた情報提供が不可欠です。

同時に、各国・地域では製品に関する規制が強化されています。特に欧州連合(EU)は、持続可能な製品イニシアティブ(Sustainable Products Initiative: SPI)などを通じて、製品の設計段階から環境性能や資源効率を考慮する「エコデザイン」の適用範囲を拡大し、デジタル製品パスポートによる情報開示義務化などを進めています。これは、製品の修理可能性、耐久性、リサイクル性などを高め、サーキュラーエコノミーへの移行を促進することを目的としています。

また、製品のサプライチェーンにおける人権や環境リスクに関するデューデリジェンス義務化の動きも加速しており、企業は自社が販売する製品が、その製造・流通過程で児童労働や環境破壊に関与していないことを確認し、責任を負うことが求められています。

これらの潮流は、特定の業界や製品に限定されず、ほぼ全ての製品カテゴリーに影響を及ぼしつつあります。

日本の現状と課題:国際潮流への対応と国内市場の特異性

日本においても、消費者の環境・社会課題への関心は高まりつつありますが、国際的な潮流と比較すると、その行動変容の速度や市場全体への影響力には、まだ差が見られるという指摘があります。一部の先進的な消費者層や若年層ではサステナビリティを重視する傾向が強いものの、価格や利便性を最優先する層も多く、サステナブルな選択肢が主流となるには至っていない側面があります。

製品に関連する法規制についても、容器包装リサイクル法、家電リサイクル法など個別のリサイクル法は整備されているものの、EUのような製品の設計段階から包括的に環境・社会配慮を義務付けるエコデザイン規制や、広範な製品を対象としたデジタルパスポートのような情報開示義務化については、現時点では限定的です。ただし、プラスチック資源循環促進法のような新たな法律の施行や、経済産業省における「成長志向型の資源自律経済戦略」の検討など、サーキュラーエコノミーや製品ライフサイクル全体への意識は高まってきています。

日本企業が直面する主な課題としては、以下が挙げられます。

日本企業が取るべき戦略:責任ある生産・消費に向けた実践的アプローチ

このような国際潮流と日本の現状を踏まえ、日本企業はSDGs目標12達成に貢献しつつ、競争力を維持・強化するために、以下の戦略を検討すべきです。

  1. 製品ライフサイクル全体での影響評価と設計変革:

    • 製品の原材料調達から廃棄・リサイクルまで、ライフサイクルアセスメント(LCA)などの手法を用いて環境・社会影響を定量的に評価します。
    • 評価結果に基づき、製品設計段階から環境負荷低減、資源効率向上、耐久性・修理可能性・リサイクル性の向上を目指した設計(エコデザイン)を取り入れます。
    • 例:再生可能素材や再生材の使用拡大、製品のモジュール化による修理・アップグレードの容易化、有害物質の使用削減など。
  2. サプライチェーンにおける責任ある調達とトレーサビリティ構築:

    • 原材料サプライヤーや製造委託先に対し、環境規制遵守や適切な労働環境の確保を求め、デューデリジェンスを強化します。
    • ブロックチェーンなどの技術も活用し、サプライチェーン全体でのトレーサビリティシステムを構築し、透明性を高めます。
  3. 消費者との建設的なコミュニケーションと情報開示:

    • 製品の環境性能やサステナビリティに関する情報を、分かりやすく、かつ根拠に基づいた形で消費者に開示します。
    • グリーンウォッシュのリスクを避けるため、誇張や曖昧な表現を避け、具体的なデータや認証などを活用します。
    • 消費者の責任ある消費行動を促すための情報提供や啓発活動を行います。
  4. 新たなビジネスモデルへの挑戦:

    • 製品を販売するだけでなく、サービスとして提供する(Product as a Service)モデル、シェアリング、リペア・リファービッシュ(再生)事業などを検討し、製品の長寿命化や利用効率向上を目指します。
    • 使用済み製品の回収・リサイクルシステムを強化し、クローズドループ(循環)の構築を図ります。
  5. 規制動向の継続的なモニタリングと事前対応:

    • EUをはじめとする主要市場における製品関連規制(エコデザイン、デジタルパスポート、デューデリジェンスなど)の動向を常に把握し、法改正に先んじて対応策を検討・実施します。
  6. 業界連携と標準化への貢献:

    • 個別企業での対応には限界があるため、業界団体などを通じて、標準化された評価手法や情報開示フォーマットの確立に貢献します。共通の課題解決に向けた企業間連携を推進します。

まとめ:責任ある生産・消費への対応は競争力強化の鍵

SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」は、単なるCSR活動や社会貢献という枠を超え、企業の根幹である製品開発、生産、販売、さらにはビジネスモデルそのものに変革を迫るテーマとなっています。世界の消費者意識の高まりと製品に関する規制強化の潮流は不可逆的であり、これに適切に対応できるかどうかが、今後の企業の持続可能性と競争力を左右すると言っても過言ではありません。

日本企業は、これらの国際潮流をリスクとして捉えるだけでなく、新たな技術開発、革新的な製品設計、そして消費者とのエンゲージメントを通じた新たなビジネス機会創出のチャンスと捉えるべきです。製品ライフサイクル全体を見通した責任ある生産・消費への戦略的な取り組みは、企業価値の向上、ブランドイメージの強化、そして将来にわたる事業の安定化に繋がる重要な経営課題です。企業のSDGs推進担当者には、これらの国際潮流と国内の現状を深く理解し、自社の事業特性に合わせた具体的な戦略を立案・実行していくことが求められています。